【2025年農林業センサス解説】データが示す「日本農業の構造転換」

2025年2月1日現在の状況をまとめた「2025年農林業センサス(概数値)」が公表された。5年に一度実施されるこの調査は、日本農業の健康診断とも言える重要な統計である。今回の結果が突きつけたのは、単なる「減少」ではなく、産業としての「質の転換」であった。

農林業センサスとは

農林業センサスは、農林水産省が5年ごとに実施する、農林業に関する最も基礎的で大規模な統計調査だ。全国の農林業経営体を対象に、経営耕地面積、労働力、販売金額、経営の多角化などを調査するものである。

👇「2025年農林業センサス(概数値)」

census_25.pdf

2025農林業センサスから読み取れること

最新のデータから見えてくるのは、小規模・個人経営が急速に退場し、残された農地と生産機能が一部の大規模経営体に集約されていることである。

1. 「農地シェア5割」の壁を突破

特筆すべきは、農地の集積状況だ。経営耕地面積が20ha以上の農業経営体が、全耕地面積の51.0%を占める結果となった。これまで日本の農業は「多数の小規模家族経営」によって支えられてきたが、ついに過半数の農地を「少数の大規模経営体」が管理する時代へ突入したと言える。1経営体当たりの平均耕地面積も3.7haとなり、離農した土地を引き受ける形での規模拡大が進んでいる。

2. 「家業」から「事業」への転換点は3,000万円

売上規模(農産物販売金額)別の動向を見ると、経営体数が増加しているのは「販売金額3,000万円以上」の層のみである。それ以下の規模では軒並み減少しており、特に小規模層の減少幅が顕著だ。これは、3,000万円未満では「生存できない」という意味ではない。しかし、資材高騰や人件費上昇の中で、再投資を行い事業を継続・発展させるためには、家族労働を中心とした「家業」の枠を超え、雇用や機械化投資を伴う「事業(組織経営)」へシフトすることが求められている。この「3,000万円」というラインに表れていると言えるだろう。

3. 地域農業の「受け皿」として定着する法人経営

農業経営体全体が約23%減少(約83万経営体へ縮小)する中で、法人経営体は前回比7.9%増(約3万3千経営体)と、逆行して成長している。もちろん、法人化するか否かは経営者の自由な選択だ。しかし、離農によって発生した広大な農地を引き受け、雇用を生み出し、次世代へ資産をつなぐための「器」として、法人という形態が地域農業において不可欠なインフラ(受け皿)となっている実態が見て取れる。

2020年と2025年の農林業センサスを比べて読み取れること

2020年(令和2年)と2025年(令和7年)の結果を比較すると、この5年間で変化のスピードが加速していることが分かる。

1. データ活用(DX)の爆発的な普及

最も劇的な変化は「データ駆動型農業」へのシフトだ。データを活用した農業を行う経営体の割合は、2020年の17.0%から、2025年には40.0%へと倍増以上の伸びを見せた。かつては先進的な一部の農家のものであったスマート農業やデータ管理が、スマートフォンの普及や安価なツールの登場により、標準的なインフラとして定着したことを示している。特に団体経営体では63.0%がデータを活用しており、経営管理能力の差が生存率に直結している様子がうかがえる。

2. 基幹的農業従事者の「100万人割れ」が目前に

「人」の減少スピードは深刻だ。農業を主業とする基幹的農業従事者数は、2020年の136万人から、2025年には102万人へと約34万人(約25%)減少した。この減少幅は、地方都市の人口が丸ごと消滅する規模に匹敵する。平均年齢は67.6歳と依然として高く、今後数年で確実に100万人を割り込むことは明白である。急速な人手不足に対し、それを補うロボット化や省力化技術の実装は待ったなしの状況だ。

3. 「規模の壁」の上昇

2020年時点では、農地集積の指標として「10ha以上層」がシェア55%を占めて注目されていた。しかし2025年には、その基準が「20ha以上層」でシェア51%へと、バーが一段高く設定された。これは、10haクラスの中規模農家ですら規模拡大競争において「中間層」となり、さらなる巨大化・集約化が進んでいることを意味する。

まとめ(近年の農業界の動向)

2025年農林業センサスが示したのは、日本農業の「緩やかな衰退」ではなく、「劇的な構造再編」である。

  1. プレイヤーの交代: 個人農家が急速に退場し、法人・大規模経営体が主役へ。
  2. 経営の高度化: 「勘と経験」から「データと論理」への不可逆的なシフト。
  3. 二極化の完成: 「稼げるプロ農家」と、それ以外の層の乖離が決定的に。

これからの5年間は、残されたこの100万人の担い手が、いかにテクノロジーを使いこなし、いかに人を育て、広大な農地を守り抜くか。その「生産性」の限界に挑む戦いとなるだろう。 私たちが注視すべきは、減っていく数字を嘆くことではない。厳しい選別を生き残り、今まさに現場で戦っている「残ったプレーヤー」たちが、どう未来を切り拓こうとしているか。その最前線の動きにこそ、日本農業の希望がある。